らららクラシック
クラシック音楽をこよなく愛するシンガー平原綾香さんが、自分を育ててくれた名曲の魅力を語ります。初めて出会ったとき、わけも分からず涙が止まらなくなったというホルストの「木星(ジュピター)」、そして平原さんに人生の深みを教えてくれたエルガーの「チェロ協奏曲」を取り上げ、時代やジャンルを超越するクラシックの魅力をひも解きます。
平原綾香のクラシック・ヒストリー
もともとシャイで、人前で歌うなど考えられなかった彼女を変えたのは、ベートーベンの「第9」をもとにしたミュージカル・ナンバーを高校の文化祭で歌ったことでした。それが音楽関係者の目にとまり歌手デビュー。クラシックをアレンジしたデビュー曲「Jupiter」は大ヒットし、いきなり紅白歌合戦にも出場しました。その後、30曲以上のクラシックの名曲をオリジナルの歌詞とアレンジで歌ってきました。クラシックとポップスを融合したその音楽は独自の世界を形作り、クラシック・ファンの裾野を広げています。
ホルスト物語:日常をマイペースに自分らしく生きる
平原綾香さんが歌う「Jupiter」の原曲は、ホルストによる組曲「惑星」の第4曲「木星」。作曲家ホルストの本職は女子校の先生で、生徒たちからは「グッシー」と呼ばれて慕われたそうです。ホルストは音楽の専門家で無い人が音楽をする喜びに目覚めることに意義を見出し、この作品の中にも、イギリス各地を旅して研究した民謡や普通の人が奏でる素朴な歌を取り入れています。馴染みやすくわかりやすい「惑星」の初めての公開演奏は大成功を収め、ホルストは作曲家として一躍スター的存在に。しかし本人はいたってマイペースで、生涯一教師としての人生を貫きました。
エルガー物語:人生の深みを知るクラシック
ホルストとほぼ同時代に活躍した作曲家エルガー。「愛の挨拶」や「威風堂々」で知られるイギリスの大作曲家ですが、平原さんが注目したのは、知る人ぞ知る渋い曲、「チェロ協奏曲」。作曲の背景にあったのは第一次世界大戦です。エルガーは戦時中、国家に作曲で協力。しかし世の中にあふれる好戦的なムードや多くの戦死者の訃報に嫌気がさし、作曲への情熱をなくして田舎の山荘にひきこもります。
そんなとき、再び作曲への力を与えたのは森の散歩でした。再生の象徴である森の木々にインスピレーションを得て書き上げたのが「チェロ協奏曲」。平原さんは「ウッド・マジック」とよばれるそのエピソードに感動して歌詞を書き、「チェロ協奏曲」を「私と言う名の孤独」というタイトルのポップスに仕立て直します。平原さんは、作曲の背景や作曲家の人生を深く勉強することで、名曲をより身近なものとして感じています。