らららクラシック

 

マーラーの「アダージェット」~絶望の果てにつかんだ愛の世界~

司会を務める俳優の高橋克典が「一番好きだ」と語るマーラーの代表曲「アダージェット」。それは、41歳で結婚したマーラーが若き新妻に捧げた「音楽のラブレター」です。しかし、彼が描いたのはありふれた幸せとはかけ離れた世界…。
音楽に託された真の願いを作曲家・宮川彬良さんと一緒に解き明かします。

若き新妻に宛てた音楽のラブレター

36歳の若さでヨーロッパ最高峰のオペラ劇場で指揮者のポストを得たマーラーはまさに才能にあふれる「仕事人間」。そんなマーラーの人生を変えたのは、宮廷画家の家に生まれ、教養にあふれた若きアルマ・シントラーとの出会い。マーラーは19歳差をものともせず、アルマを運命の人と見定め、出会ってわずか4ヶ月で結婚にこぎつけます。そして当時作曲途中だった交響曲第5番に、急遽加えたのが、第4楽章「アダージェット」。この曲は、マーラーの最初で最後の恋を歌った愛の調べだったのです。

マーラーの真の願いは「死」か?「母との再会」か?

この曲は、愛に満ちた作品でありながら、様々に解釈することも可能です。音楽学者の長木誠司さんは、マーラーの作品に頻繁に描かれる死、いわば死への欲動がこの作品に込められているといいます。一方、精神医学の立場から斉藤環さんは、アルマと結ばれることの象徴的な意味を亡き母との再会ととらえ、この作品に母と甘美な再会を遂げるというストーリーを読み取ります。

言葉のないオペラ

心地いい響きの中に突如現れる不協和音。聴くものの胸を締め付け、心をかき乱すかのようなこの不協和音は、まるで、いつも悲しげだったマーラーの母親をあらわすかのようです。ここにオペラ指揮者マーラーの技があると、作曲家・宮川彬良さんはいいます。まさにマーラーはオペラを書いているように、楽器で言葉を語っていたのです。

 

生と死を改めて感じさせられました。
宮川彬良(作曲家)

宮川彬良(作曲家)

 

最近では、連続テレビ小説ひよっこ」の音楽を担当。ミュージカルや演劇の音楽も数多く手がける。
音楽をわかりやすく伝える演奏会を各地で開催している。